Wakaksitesis

感想・備忘録・夏休みの自由研究

manner(方法)は「手」から生まれる

英単語の覚え書き、第4回目。mannerについて。

mannerには「方法」「態度」「作法」「風習」といった用法がある。

いわゆる「マナー(作法)」は、英語では複数形(manners)で表されるというのは有名な話だろう。

そんなmannerは「手」を意味する言葉に由来する。そのあたりを紹介してみたい。

 

manner

mannerの語源を見てみよう。

c. 1200, manere, "kind, sort, variety," from Anglo-French manere, Old French maniere "fashion, method, manner, way; appearance, bearing; custom," from Vulgar Latin *manaria (source of Spanish manera, Portuguese maneira, Italian maniera), from fem. of Latin manuarius "belonging to the hand," from manus "hand".

12世紀、manere「種類」

← アングロフランス語 manere、古フランス語 maniere「方法;見た目;風習」

俗ラテン語 *manariaスペイン語 manera「方法」、ポルトガル語 maneira「方法」、イタリア語 maniera「手法」の元)

ラテン語 manuarius「手に属する」 ← ラテン語 manus「手」

 

このように、ラテン語で「手」を意味する manus に由来する。そこから様々な言語で「方法」を意味する言葉に派生している。英語では、12世紀の時点では「種類」の用法があり、「方法」の用法は13世紀からのようだ。「種類」という更に抽象的な意味を経由してから「方法」の意味に戻ってきている。

 

「手に属する」から「方法」に派生するのは一見突飛だが、よく考えてみるとそこまで突飛な話でもない。「手」というのは人間が外環境に作用し、物体を繊細に操作することを可能にする器官である。そこから「方法」という概念が出てくるのはあまり不思議ではない。日本語では「手順」「手段」という言葉もある。(例えば足のように)それほど緻密な操作を物体に施せない器官しか持たないならば、「方法」という概念を獲得するのは難しそうだ。人間にとって、手は外界との媒介となる重要な器官である(昔通っていたそろばん塾の張り紙に「手は第二の脳」と書かれていたのが印象に残っている)。

 

ただし、足、もとい脚だって負けてはいない。「方法」を意味する言葉には way もある。way はもともと「道」という意味だ。《どこかに向かう道》が抽象的には《何かを達成するための方法》という意味になる。手から発生する「方法」もあれば、脚から発生する「方法」もあるのだ(当たり前と言えば当たり前だけれど)。また、以下の記事で少し取り上げたが、method も「道」を意味する言葉に由来している。method の場合、古代ギリシャmethodos が「道に従う」から 「探求の手法」(目的となる知識に到達するための思考の道筋)に派生している。

badmelodies.hatenablog.com

 

manner(方法)が複数集まり一連のものになったもの(manners)が「礼儀作法(マナー)」だろう。それが社会や時代全体のものとなると「風習」になる。

そしてもちろん、mannerはもはや「手に属する方法」のみならず、「態度」のような身体全体に帰属される意味も表すようになっている(抽象化)。

 

manus(手)に由来する他の英単語

  • manual:[形] 手の、[名] 手引き
    「オートマとマニュアル」のマニュアル(手動の)。または、「マニュアルを読んどけ」のマニュアル(手引き,説明書)である。説明書には、方法が書かれている。
  • manicure:マニキュア
    入れ」の意。足の爪に施すものを pedicure という。pedi- は ラテン語 pes「足」の属格 pedis に由来する。
  • manacle:手錠,枷(かせ)
    現在では「枷」も manacle と言ったりする。
  • maintain:維持する

    語構成としては manus "hand" + tenere "to hold" となっている。「手で押さえる/保つこと」ほどの原義。

  • manufacture:[動] 製造する、[名] 製造
    「手で作ること」という意味であった。そこから、産業革命以前では「工場制手工業」を表す言葉であったが、産業革命で機械による生産が登場し、現在では「(機械を使って大規模に)製造する」という用法に取って代わられている(本質の推移)。
  • manuscript:原稿,(手書きの)写本
    「手で書かれた物」という意味。こちらも機械、もっと言えば電子端末の登場で、「手で」という手段の部分が「電子端末で」になっていても manuscript という言葉が用いられる。

 

参考