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感想・備忘録・夏休みの自由研究

聖書を日英対訳で読んでみる/創世記第3章

知恵の実と、楽園からの追放。

 

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第3章

1. Now the serpent was more crafty than any other beast of the field that the Lord God had made.  He said to the woman, “Did God actually say, ‘You shall not eat of any tree in the garden’?”
 さて主なる神が造られた野の生き物のうちで、へびが最も狡猾であった。へびは女に言った、「園にあるどの木からも取って食べるなと、ほんとうに神が言われたのですか」。

  • youと英訳されている部分はヘブライ語では複数形である。英語は二人称(you)が単複同形であるためにこのような二義性が生じる。

 

2. And the woman said to the serpent, “We may eat of the fruit of the trees in the garden,
 女はへびに言った、「わたしたちは園の木の実を食べることは許されていますが、

  • eat of X ≒ eat some of X

 

3. but God said, ‘You shall not eat of the fruit of the tree that is in the midst of the garden, neither shall you touch it, lest you die.’”
 ただ園の中央にある木の実については、これを取って食べるな、これに触れるな、死んではいけないからと、神は言われました」。

  • ここでの「死ぬ」の意味はなんだろう。
    ①神が脅しとして「生命がなくなるぞ」と言っている(実際にこのあと実を食べて命を落とすことはないから《脅し》だと思う)。神の脅しはもう脅しではないような気もするが……。
    ②「善悪を知る」ことが「死ぬ」ことである。
    ③「善悪を知ることで、楽園に居られなくなる」から「死ぬ」と言っている。
  • 「自分が死ぬということを知らない状態」=「楽園に居る状態」。
  • 「罪」の意味合いは、①「神の命令に背いた行動をしたこと」、②「悪を知ったこと」と考えられる。

 

4. But the serpent said to the woman, “You will not surely die.
 へびは女に言った、「あなたがたは決して死ぬことはないでしょう。

  • ヘビが提示する3節での「死ぬ」は、①(文字通りの死;神による脅し)の解釈である。

 

5. For God knows that when you eat of it your eyes will be opened, and you will be like God, knowing good and evil.”
 それを食べると、あなたがたの目が開け、神のように善悪を知る者となることを、神は知っておられるのです」。

  • 「目を開ける」=「知る」というモチーフ好き。
  • 英訳でopenに相当する部分は、フランス語ではdessillerが使われている。「啓蒙する」というような意味合いで使われる。de+ciller という語構成で、cillerは古フランス語で「鳥の瞼を縫い合わせる」の意である。

 

6. So when the woman saw that the tree was good for food, and that it was a delight to the eyes, and that the tree was to be desired to make one wise, she took of its fruit and ate, and she also gave some to her husband who was with her, and he ate.
 女がその木を見ると、それは食べるに良く、目には美しく、賢くなるには好ましいと思われたから、その実を取って食べ、また共にいた夫にも与えたので、彼も食べた。

  • [Bible Gateway註:to make one wiseはto give insightとも]
    insight という語は「直観」(推理を用いず、直接に対象をとらえること)を意味する。in+sightで「内側+見る」という構成。ちなみに intuition も同じ構成(内側+見る)。
  • 新共同訳「女が見ると、その木はいかにもおいしそうで、目をひきつけ、賢くなるように唆していた。女は実をとって食べ、一緒にいた男にも渡したので、彼も食べた。」
  • ヘビに唆された女が男を唆した、という構図になる。

 

7. Then the eyes of both were opened, and they knew that they were naked. And they sewed fig leaves together and made themselves loincloths.
 すると、ふたりの目が開け、自分たちの裸であることがわかったので、いちじくの葉をつづり合わせて、腰に巻いた。

  • さっき木を見て美味しそうという記述があったので、物理的には目を開いていたはず。ここでは「今まで気付いていなかったものに気付けるようになった」ことの比喩表現。
  • ここでの「自分達が裸だと知った」というのは「裸でいることは恥(悪)だと気付いた」ほどの意味か。「良し(善)としている」ならば、隠す(滅する)ことなどせず、その存在を認めてありのままでいるはずである。
  • fig:イチジク
    栽培品種となった最初の果樹という説があるらしい。(イチジク - Wikipedia
  • loincloth:腰巻 (loins:腰部)(sirloin:腰の上部の肉,サーロイン)

 

8. And they heard the sound of the Lord God walking in the garden in the cool of the day, and the man and his wife hid themselves from the presence of the Lord God among the trees of the garden.
 彼らは、日の涼しい風の吹くころ、園の中に主なる神の歩まれる音を聞いた。そこで、人とその妻とは主なる神の顔を避けて、園の木の間に身を隠した。

  • 英訳でcoolとなっている部分は、ヘブライ語ではwindに相当するようだ。
  • 神って歩くんだ
  • 「悪」とは「存在を肯定しないこと」であるよう。神の造った世界で、神の前に姿を晒せないということは、存在の否定(死)となる。
    関係ないけど、innocent はラテン語 in- “not” + nocere “to harm” から成る言葉に由来し、「害がない」➡「無垢な」という意味になるが、nocere は印欧祖語の *nek- “death” に繋がる様子。「無垢」とは「死から離れている」ことか。

 

9. But the Lord God called to the man and said to him, “Where are you?”
 主なる神は人に呼びかけて言われた、「あなたはどこにいるのか」。

  • ここの you は単数。
  • 「あなたはどこにいるのか」という問いは、「あなたはいる(存在する)こと」を前提している(信じている)。つまり、《「自らの存在の否定をする=自らの悪を隠す=自らの悪を知っている=善悪の区別を知っている=善悪を知る果実を食べる」ということをしていない》と神は信じているのである。

 

10. And he said, “I heard the sound of you in the garden, and I was afraid, because I was naked, and I hid myself.”
 彼は答えた、「園の中であなたの歩まれる音を聞き、わたしは裸だったので、恐れて身を隠したのです」。

  • 「自らを存在の源泉たる神から隠す」=「自らの存在を否定する」となる。これが「悪」である。

 

11. He said, “Who told you that you were naked? Have you eaten of the tree of which I commanded you not to eat?”
 神は言われた、「あなたが裸であるのを、だれが知らせたのか。食べるなと、命じておいた木から、あなたは取って食べたのか」。

 

12. The man said, “The woman whom you gave to be with me, she gave me fruit of the tree, and I ate.”
 人は答えた、「わたしと一緒にしてくださったあの女が、木から取ってくれたので、わたしは食べたのです」。

  • 人のせいにするな! “Have you ~ ?” と問われているのに、「私が~」ではなく「あの女が」という対象化された人間を主語に据えて答える。ここで初めて、発言の中に三人称の人間の主語が登場する。
    関係ないけど、"Love is an egotism of two." (by Antoine de la Salle) という箴言を思い出した。愛の世界は二人の利己性から成る世界である。

 

13. Then the Lord God said to the woman, “What is this that you have done?” The woman said, “The serpent deceived me, and I ate.”
 そこで主なる神は女に言われた、「あなたは、なんということをしたのです」。女は答えた、「へびがわたしをだましたのです。それでわたしは食べました」。

  • 人のせいにするな!

 

14. The Lord God said to the serpent, “Because you have done this, cursed are you above all livestock and above all beasts of the field; on your belly you shall go, and dust you shall eat all the days of your life.
 主なる神はへびに言われた、「おまえは、この事を、したので、すべての家畜、野のすべての獣のうち、最ものろわれる。おまえは腹で、這いあるき、一生、ちりを食べるであろう。

  • 英訳、倒置しまくり。日本語訳、読点打ちまくり。フランス語訳では倒置がないようだ。
  • 「だから蛇には足がないんですね~」みたいなお話。同時に、蛇が「狡猾な者」の比喩を受け持つようになった。

 

15. I will put enmity between you and the woman, and between your offspring and her offspring; he shall bruise your head, and you shall bruise his heel.”
 わたしは恨みをおく、おまえと女とのあいだに、おまえのすえと女のすえとの間に。彼はおまえのかしらを砕き、おまえは彼のかかとを砕くであろう」。

  • 英訳で offspring となっている部分は、ヘブライ語では英語の seed に相当する語らしい。
  • enmity は enemyの抽象名詞。敵意,恨み。
  • アダムと女の憎しみは「だから男女は分かり合えないんですね~」みたいなお話で、子孫同士の憎しみは「だから人間は争い合うんですね~」みたいなお話かな。

 

16. To the woman he said, “I will surely multiply your pain in childbearing; in pain you shall bring forth children. Your desire shall be contrary to your husband, but he shall rule over you.”
 つぎに女に言われた、「わたしはあなたの産みの苦しみを大いに増す。あなたは苦しんで子を産む。それでもなお、あなたは夫を慕い、彼はあなたを治めるであろう」。

  • [Bible Gateway註:shall be contrary toはshall be towardとも]
  • 「産みの苦しみ」。
  • さっきは「憎しみ合う」とか言ってたのに、もう求めるようにデザインしてる。アンビバレントな感情の起源、みたいな話をしているのかな。
  • 女は男のあばら骨から生まれるわ、苦しんで産んでも男に支配されるわで、フェミニストからの受けが良くないよう。

 

17. And to Adam he said, “Because you have listened to the voice of your wife and have eaten of the tree of which I commanded you, ‘You shall not eat of it,’ cursed is the ground because of you; in pain you shall eat of it all the days of your life;
 更に人に言われた、「あなたが妻の言葉を聞いて、食べるなと、わたしが命じた木から取って食べたので、地はあなたのためにのろわれ、あなたは一生、苦しんで地から食物を取る。

  • 「労働の苦しみ」
    ちなみに、英語 labor は「労働」と「陣痛」(産みの苦しみ)の両方の用法を持つ。

 

18. thorns and thistles it shall bring forth for you; and you shall eat the plants of the field.
 地はあなたのために、いばらとあざみとを生じ、あなたは野の草を食べるであろう。

  • for youは「あなた(への攻撃)のためにわざわざ」という感じか。
  • 樹木は冬も存在するが、草は冬になると枯れる。(死の暗示)
    草を食うには這いつくばらないといけない。(蛇への呪いと共通)
  • thistle:アザミ

 

19. By the sweat of your face you shall eat bread, till you return to the ground, for out of it you were taken; for you are dust, and to dust you shall return.”
 あなたは顔に汗してパンを食べ、ついに土に帰る、あなたは土から取られたのだから。あなたは、ちりだから、ちりに帰る」。

  • いきなりパン出てきた。パンが《食べ物》ひいては《物質的なもの》の象徴として聖書で用いられるのは知っているけれど、ここまでの文脈からして唐突すぎる登場だ。
  • あなたは、ちりだから、ちりに帰る」という表現、めちゃくちゃ好き。

 

20. The man called his wife's name Eve, because she was the mother of all living.
 さて、人はその妻の名をエバと名づけた。彼女がすべて生きた者の母だからである。

  • 女に名前が付いた。Bible Gatewayの註によると、エバヘブライ語で「生命を与える者」に相当する語の音に似ていて、「生きる事」に相当する語に似ている(Eve sounds like the Hebrew for life-giver and resembles the word for living)。
    また、ウィキペディアによると、「呼吸をする」という意味のchavah(ハヴァ)や「生きる」という意味のchayah(ハヤー)に由来する、とある。
  • 「すべて生きた者」というのはどういう意味だろう。「全ての人間」の意か。

 

21. And the Lord God made for Adam and for his wife garments of skins and clothed them.
 主なる神は人とその妻とのために皮の着物を造って、彼らに着せられた。

  • 服くれた! 何の皮だろう?

 

22. Then the Lord God said, “Behold, the man has become like one of us in knowing good and evil. Now, lest he reach out his hand and take also of the tree of life and eat, and live forever —”
 主なる神は言われた、「見よ、人はわれわれのひとりのようになり、善悪を知るものとなった。彼は手を伸べ、命の木からも取って食べ、永久に生きるかも知れない」。

  • セリフの主語がyouじゃなくなってる。
  • 神が自身を指して「我々(us)」と言っているのは、君侯的複数pluralis majestatis)と呼ばれる現象か。国王なども使うやつ。
  • 神は善悪を知るものであり、アダムは善悪を知ったために、アダムは神のような存在の一員となった、ということか。つまり、「存在を認めたり認めなかったりできる」ようになった。
  • lest SV:SVするといけないから
  • 今までは死がなかったから、生命の樹に手を伸ばす必要もなかったが、知恵を手に入れ善悪を知った(=生死の概念が生じた)いま、アダムたちは生命の樹に手を伸ばすかもしれない。

 

23. therefore the Lord God sent him out from the garden of Eden to work the ground from which he was taken.
 そこで主なる神は彼をエデンの園から追い出して、人が造られたその土を耕させられた。

  • アダムは土を耕し、そこから生える草を食べる。

 

24. He drove out the man, and at the east of the garden of Eden he placed the cherubim and a flaming sword that turned every way to guard the way to the tree of life.
 神は人を追い出し、エデンの園の東に、ケルビムと、回る炎のつるぎとを置いて、命の木の道を守らせられた。

  • ケルビム(cherubim)って誰? 日本語では「智天使」とも呼ばれるようだけれど、いつの間に造られたんだろう。(語源
  • a flaming sword that turned every way:あらゆる方向に向く炎の剣
  • ウィキペディアだと「炎の剣」が「雷」にリンクされているけど、そうなんだ。

 

参考

 

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