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感想・備忘録・夏休みの自由研究

聖書を日英対訳で読んでみる/創世記第2章

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第2章

1. Thus the heavens and the earth were finished, and all the host of them.
 こうして天と地と、その万象とが完成した。

  • a host of X:大勢のX
    元は「軍,軍勢」を表す言葉。ラテン語 hostis「敵」に由来する。

 

2. And on the seventh day God finished his work that he had done, and he rested on the seventh day from all his work that he had done.
 神は第七日にその作業を終えられた。すなわち、そのすべての作業を終って第七日に休まれた。

  • 新共同訳「第七の日に、神はご自分の仕事を完成され、第七の日に神はご自分の仕事を離れ、安息なさった。」
  • 後に、アダムへの罰として労働が課されることになるが、これは labor である。
    work と labor は異なるものとして扱われているよう。
  • 神が第七日に安息することによって、世界の創造が完了する。

 

3. So God blessed the seventh day and made it holy, because on it God rested from all his work that he had done in creation.
 神はその第七日を祝福して、これを聖別された。神がこの日に、そのすべての創造のわざを終って休まれたからである。

  • 聖別(せいべつ):キリスト教で、神聖な用にあてるため物または人を一般的・世俗的使用から引き離して、区別すること。
  • 一週間の七日のうち祝日(holiday ← holy + day)があることの由来。

 

4. These are the generations of the heavens and the earth when they were created, in the day that the Lord God made the earth and the heavens.
 これが天地創造の由来である。主なる神が地と天とを造られた時、

  • when節は副詞節(areを修飾する)とするとおかしいので、形容詞節でthe generationsに係っていると解釈する。「これらが、天地がcreateされたときの、天地のgenerations(天地が造られた時に、天地が出来上がったこと)である」という感じ。generation は generate の名詞形で「生成」(出来上がること)の意。「世代」は「生み出された物」である。
  • 通常ピリオドまででひとつの意味を成すはずだが、なぜか意味的には、カンマの前後で分かれているようだ(in the day以下が2-5に係っている?)。形式としては原語であるヘブライ語や、フランス語でもそうなっているらしい。日本語訳では、意味を汲んで別文とし、in the day以下の2-5への修飾を明示するように訳されている。

 

5. When no bush of the field was yet in the land and no small plant of the field had yet sprung up ― for the Lord God had not caused it to rain on the land, and there was no man to work the ground,
 地にはまだ野の木もなく、また野の草もはえていなかった。主なる神が地に雨を降らせず、また土を耕す人もなかったからである。

  • [Bible Gateway註;fieldはopen countryとも]
    countryは「土地」の意。俗ラテン語 *(terra) contrata「反対に横たわる(土地)」が由来。terra がなくとも contrata だけで「土地」の意味を含むようになったと見られる(短縮的感染(contractive contagion))。
  • [Bible Gateway註;landはearthとも]
  • 3日目に創造された植物が全て枯れ果てている。神のしくじりかと思ったが、神にとってみれば「雨が必要な事由」(植物の繁殖)を作ってからでないと「雨」を創造することが必要でなかったのかもしれない。
  • あるいは、3日目に創造された植物はやはり概念としての植物だったか。

 

6. and a mist was going up from the land and was watering the whole face of the ground—
 しかし地から泉がわきあがって土の全面を潤していた。

  • [Bible Gateway註;mistはspringとも]
    mist だと「霧」、よくて「噴霧」だと思うが……。
  • 雨、造らないんだ……。というか、泉があるならどうして植物は枯れたのか。
    神が存在を認めて(見止めて)初めて泉は存在を得て、植物に水分を与えることが出来るようになった、ということか。

 

7. then the Lord God formed the man of dust from the ground and breathed into his nostrils the breath of life, and the man became a living creature.
 主なる神は土のちりで人を造り、命の息をその鼻に吹きいれられた。そこで人は生きた者となった。

  • ground(土)はヘブライ語では「アダマー(אֲדָמָה)」であり、「アダム(אָדָם)」の名の由来となる。
  • nostril:鼻孔
  • 「息」から「魂」のような意味へと派生した言葉はギリシャ語の psyche だけでなく、ラテン語 spiritus もある。息を吹きいれることを原義とする英単語に inspire 「鼓舞する,吹き込む」がある。
  • ここで、人間は肉体(ヒュレー)を得る。

 

8. And the Lord God planted a garden in Eden, in the east, and there he put the man whom he had formed.
 主なる神は東のかた、エデンに一つの園を設けて、その造った人をそこに置かれた。

  • 楽園の名前が「エデン」なのかと思っていたが、そうではなくて、エデンという場所に楽園を造ったらしい。

 

9. And out of the ground the Lord God made to spring up every tree that is pleasant to the sight and good for food. The tree of life was in the midst of the garden, and the tree of the knowledge of good and evil.
 また主なる神は、見て美しく、食べるに良いすべての木を土からはえさせ、更に園の中央に命の木と、善悪を知る木とをはえさせられた。

  • makeは通常、make sth. V (SVOC)というふうに、目的語と、その後に原形不定詞をとる。この用法は使役動詞と呼ばれる。しかし、この文では倒置した(SVCO)うえで、原形不定詞ではなくto不定詞が用いられている。makeは古くはto不定詞をとっていたことから、受動態では名残としてto不定詞が使用されるようだが、その類型か。(http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2011-12-23-1.html)
    この文では make to do X that ~ となっているとして、別の英訳をいくつか比較してみよう。
    [New King James Version] And out of the ground the LORD God made every tree grow that is pleasant to the sight and good for food.(make X do that ~)
    [New American Bible] Out of the ground the LORD God made grow every tree that was delightful to look at and good for food,(make do X that ~)
    [New Heart English Bible] And out of the ground the LORD God made every tree to grow that is pleasant to the sight, and good for food;(make X to do that ~)
    倒置が為されているものと為されていないもの、原形不定詞が用いられているものとto不定詞が用いられているものがそれぞれ全てあるみたい。

 

10. A river flowed out of Eden to water the garden, and there it divided and became four rivers.
 また一つの川がエデンから流れ出て園を潤し、そこから分れて四つの川となった。

  • 「エデン」と「園」はやはり別物らしい。「エデンの園」とは「エデンという名の園」ではなく「エデンにある園」だ。
  • ここから4つの川の紹介。

 

11. The name of the first is the Pishon. It is the one that flowed around the whole land of Havilah, where there is gold.
 その第一の名はピソンといい、金のあるハビラの全地をめぐるもので、

  • 「ピション」とも。名前の意味は「跳ねるもの」らしい。
    現実のどの川に対応するかは不明らしい。

 

12. And the gold of that land is good; bdellium and onyx stone are there.
 その地の金は良く、またそこはブドラクと、しまめのうとを産した。

  • 新共同訳ではブドラクは「琥珀の類」となっている。
  • onyx(オニキス)は瑪瑙(めのう)のこと。余談だが、nail(爪)と同根らしい。

 

13. The name of the second river is the Gihon. It is the one that flowed around the whole land of Cush.
 第二の川の名はギホンといい、クシの全地をめぐるもの。

  • 「ギホン」は古代エルサレムの主要な水源の名前として知られる。これは「湧出」を意味すると考えられるらしい。ナイル川と同定する研究者が多いらしい。

 

14. And the name of the third river is the Tigris, which flows east of Assyria. And the fourth river is the Euphrates.
 第三の川の名はヒデケルといい、アッスリヤの東を流れるもの。第四の川はユフラテである。

  • 第3の川は、新共同訳ではそのまま「チグリス」。「ヒデケル」は音訳。チグリス川と同定される。
  • 第4の川は、音訳では「ペラト」だが、聖書協会訳では「ユフラテ」即ちユーフラテス川となっている。
  • ユーフラテス川は皆さんご存じと言わんばかりに説明なし。

 

15. The Lord God took the man and put him in the garden of Eden to work it and keep it.
 主なる神は人を連れて行ってエデンの園に置き、これを耕させ、これを守らせられた。

  • 英語訳でworkとなっている部分はフランス語ではcultiver(英語でいうcultivate)と訳されている。keepとなっている部分はsoigner(手入れする)と訳されている。

 

16. And the Lord God commanded the man, saying, “You may surely eat of every tree of the garden,
 主なる神はその人に命じて言われた、「あなたは園のどの木からでも心のままに取って食べてよろしい。

  • 「eat of 木」と英訳されており、「木から果実をとって食う」ほどの意味になっている。

 

17. but of the tree of the knowledge of good and evil you shall not eat, for in the day that you eat of it you shall surely die.”
 しかし善悪を知る木からは取って食べてはならない。それを取って食べると、きっと死ぬであろう」。

  • of the tree of the knowledge of good and evilがyou shall not eatより前置している。
  • 助動詞shallは神意(providence;神の予見,摂理)を表す。二人称(あるいは三人称)を主語とするこの用法は、聖書ではよく見られるようだ。
  • 善悪を知る木(the tree of the knowledge of good and evil)がいわゆる「知恵の樹」。

 

18. Then the Lord God said, “It is not good that the man should be alone; I will make him a helper fit for him.”
 また主なる神は言われた、「人がひとりでいるのは良くない。彼のために、ふさわしい助け手を造ろう」。

  • [Bible Gateway註;fit forはcorresponding toとも]
    fitだと「ふさわしい」だが、correspondingだと「対応する」に近い。

 

19. Now out of the ground the Lord God had formed every beast of the field and every bird of the heavens and brought them to the man to see what he would call them. And whatever the man called every living creature, that was its name.
 そして主なる神は野のすべての獣と、空のすべての鳥とを土で造り、人のところへ連れてきて、彼がそれにどんな名をつけるかを見られた。人がすべて生き物に与える名は、その名となるのであった。

  • [Bible Gateway註;Now out of the ground the Lord God had formed は And out of the ground the Lord God formed とも]
  • 第1章で造っていたのは設計図としての鳥獣だったのか、ここで土による具体的な肉体(ヒュレー)が与えられている。
  • 生き物の命名権が人間(アダム)に与えられる。

 

20. The man gave names to all livestock and to the birds of the heavens and to every beast of the field. But for Adam there was not found a helper fit for him.
 それで人は、すべての家畜と、空の鳥と、野のすべての獣とに名をつけたが、人にはふさわしい助け手が見つからなかった。

  • [Bible Gateway註;Adamはthe manとも]
  • 19節で挙げられてなかったlivestock(家畜)がしれっといる。
  • ふさわしい助け手とは、つがいのことか。文脈的にはそうだが、結果論かもしれない。

 

21. So the Lord God caused a deep sleep to fall upon the man, and while he slept took one of his ribs and closed up its place with flesh.
 そこで主なる神は人を深く眠らせ、眠った時に、そのあばら骨の一つを取って、その所を肉でふさがれた。

  • ふつうは英語でも日本語でも「人が眠りに落ちる」と表現するところだが、英訳で「深い眠りがその人の上に降りる(a deep sleep to fall upon the man,)」と表現されている。ヘブライ語でもそうっぽいから、その形式を反映したということか。好きな表現。
  • アダムのあばら骨は奇数だったのか。と思ったけど、アダムのあばら骨が結果偶数にならなくてもいいのか。いやいやでもやっぱり、アダムは人間の原型となるはずなので、現行人類が典型的には偶数本のあばら骨を有することを考慮すれば、アダムのあばら骨も結果偶数本にならないとおかしい。かな。

 

22. And the rib that the Lord God had taken from the man he made into a woman and brought her to the man.
 主なる神は人から取ったあばら骨でひとりの女を造り、人のところへ連れてこられた。

  • OSV倒置。
  • 英訳でmade(make)となっている部分は、ヘブライ語では英語でいう「build」に相当する表現であるようだが、英語のコロケーション的に合わないから変えたということか。フランス語だとorganiser(英語でいうorganize)が使われているらしい。
  • アダムの1本のあばら骨を1人の女性にした。

 

23. Then the man said, “This at last is bone of my bones and flesh of my flesh; she shall be called Woman, because she was taken out of Man.”
 そのとき、人は言った。「これこそ、ついにわたしの骨の骨、わたしの肉の肉。男から取ったものだから、これを女と名づけよう」。

  • [Bible Gateway註;The Hebrew words for woman (ishshah) and man (ish;イシュ) sound alike]「"女性"を表すヘブライ語ishshah;イシャー)と"男性"を表すヘブライ語ish;イシュ)は音が似ている
    英訳でも man と woman という、音の似た言葉を採用することが出来ている。日本語訳は……「おとこ」と「おんな」。似ているといえば似ている? 少なくとも共通点はあると主張できるかも。
  • 原語ヘブライ語ではこれ以前は「人」のことを全て「アダム」と記し、この文で初めて「イシュ」(男)が現れるようだ。英語ではもともとmanが「人」「男」の両方の意を持つためか、man と Man というふうに区別している。英訳the manは原語の「アダム」に相当し、英訳Manは原語の「男」のことである。

 

24. Therefore a man shall leave his father and his mother and hold fast to his wife, and they shall become one flesh.
 それで人はその父と母を離れて、妻と結び合い、一体となるのである。

  • いきなりアダムと女から離れて次の世代の話をしている? the man(アダム)ではなく a man(人一般)が用いられている。子が親を離れ、誰かと出会いまた子を成す、という人間の在り方を述べているものか。
  • 「一体となる」(become one flesh)は子を成すための性交のことだろう。「一つの肉(one flesh)になる」という表現、良いな。
  • 〔6/4追記〕「一つの肉になる」に関して、性関係に留まらない関係を示唆するものとする記述があったので載せておく。

旧約聖書の人間観においては、人は結婚するまでは、親の庇護の許にあり、親に帰属する存在ですが、結婚(婚約を含む)することによって親の許を離れ、独立した人格的存在とされたのです。ですから、「一つの体になる」はもちろん性的な関係を含むものですが、そればかりではない。もっと広く包括的な関係存在としての人間となることを意味しています。法人格というものがあるように、結婚関係に入ることによって社会的な基本単位としての人格存在になることが、ここには表現されています。

―大野惠正『旧約聖書入門1 現代に語りかける原初の物語』

 

25. And the man and his wife were both naked and were not ashamed.
 人とその妻とは、ふたりとも裸であったが、恥ずかしいとは思わなかった。

  • このthe manはアダム。まだ女には名前がついていない。
  • 第3章で、ふたりは罪を犯す。

 

参考

 

次回

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