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感想・備忘録・夏休みの自由研究

聖書を日英対訳で読んでみる/創世記第12章

アブラム、エジプトに行く。

 

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英訳出典:BibleGateway.com: A searchable online Bible in over 150 versions and 50 languages.(English Standard Version)
和訳出典:口語旧約聖書 - Wikisource

 

第12章

1. Now the Lord said to Abram, “Go from your country and your kindred and your father's house to the land that I will show you.
 時に主はアブラムに言われた、「あなたは国を出て、親族に別れ、父の家を離れ、わたしが示す地に行きなさい。

  • 「親族に別れる」だと「go into kindred」みたいだけど、「親族のもとから離れ」の意。
  • [Bible Gateway註:country は land とも]
    「国(country/land)を出よ」と神に命じられるアブラム。国(土地)を持たない民族の始まり。ユダヤのアブラムと対照的に、ギリシャオデュッセウスは長らく故郷を離れるが最終的には故郷に帰ってくる。

2. And I will make of you a great nation, and I will bless you and make your name great, so that you will be a blessing.
 わたしはあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大きくしよう。あなたは祝福の基となるであろう。

  • 神はアブラムに「国を出よ」と告げたのに、「大いなる国民になれ」とも告げている。英訳を見ると、前者は country/land(国)で、後者は nation(国民)となっている。country は「土地に依拠したもの」のニュアンスが強く、nation は「生まれ」を語源としており「民族」という感じが強い。国を持たない国民(民族)、ユダヤだ。
  • you will be a blessing「あなたは祝福になる」
    アブラムは神に祝福されるのみならず、人を祝福する「祝福の基」となる。

3. I will bless those who bless you, and him who dishonors you I will curse, and in you all the families of the earth shall be blessed.”
 あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたをのろう者をわたしはのろう。地のすべてのやからは、あなたによって祝福される」。

  • [Bible Gateway註:in you all the families of the earth shall be blessed はby you all the families of the earth shall bless themselvesとも]
  • アブラムを機会原因として、神は祝福と呪いを地の被造物に振り撒く
  • 「やから(family)」:同じ血筋の人々。一家一門。眷属。一族。
    現代の日常用語としてはネガティブな意味(意味の悪化(pejoration))が見られる「やから」という言葉だが、ここでは勿論そういう意味ではないだろう。

4. So Abram went, as the Lord had told him, and Lot went with him. Abram was seventy-five years old when he departed from Haran.
 アブラムは主が言われたようにいで立った。ロトも彼と共に行った。アブラムはハランを出たとき七十五歳であった。

  • ロトはアブラムの甥にあたる。
  • 75歳で出立するの、すごい。聖書の年齢感覚は現代から見るとバグっている。(ツイッターのオタクも5000千兆円欲しいとか言ってるし、数字を盛るのは今も昔もって感じ?)

5. And Abram took Sarai his wife, and Lot his brother's son, and all their possessions that they had gathered, and the people that they had acquired in Haran, and they set out to go to the land of Canaan. When they came to the land of Canaan,
 アブラムは妻サライと、弟の子ロトと、集めたすべての財産と、ハランで獲た人々とを携えてカナンに行こうとしていで立ち、カナンの地にきた。

  • 「ハランで獲た人々」:奴隷。
  • カナンの地。約束の地として有名。

6. Abram passed through the land to the place at Shechem, to the oak of Moreh. At that time the Canaanites were in the land.
 アブラムはその地を通ってシケムの所、モレのテレビンの木のもとに着いた。そのころカナンびとがその地にいた。

  • [Bible Gateway註:oakはterebinthとも]
    terebinth:テレビンノキ(Pistacia terebinthus)。地中海地域に自生する樹木。
  • 「その地」ってどこ?  新共同訳だと「アブラムはその地(カナン)を通り、シケムの聖所、モレの樫の木まできた。」となっている。5節の記述(カナンに行こうとして出で立ち)と整合的に考えると、《カナン地方を通り、カナン地方のモレを目的地としている》ということっぽい。

7. Then the Lord appeared to Abram and said, “To your offspring I will give this land.” So he built there an altar to the Lord, who had appeared to him.
 時に主はアブラムに現れて言われた、「わたしはあなたの子孫にこの地を与えます」。アブラムは彼に現れた主のために、そこに祭壇を築いた。

  • 「この地」=カナンの地。今でいうイスラエル。まだ与えられない。アブラムの将来の子孫に与えられる。

8. From there he moved to the hill country on the east of Bethel and pitched his tent, with Bethel on the west and Ai on the east. And there he built an altar to the Lord and called upon the name of the Lord.
 彼はそこからベテルの東の山に移って天幕を張った。西にはベテル、東にはアイがあった。そこに彼は主のために祭壇を築いて、主の名を呼んだ。

  • ベテル(Bethel)。ヘブル語の「ベート(家)」と「エル(神)」に由来しており、「神の家」の意であるらしい。28章でも出てくるらしい。ちなみに「べてるの家(Bethel's house)」という社会福祉法人がある。

9. And Abram journeyed on, still going toward the Negeb.
 アブラムはなお進んでネゲブに移った。

10. Now there was a famine in the land. So Abram went down to Egypt to sojourn there, for the famine was severe in the land.
 さて、その地にききんがあったのでアブラムはエジプトに寄留しようと、そこに下った。ききんがその地に激しかったからである。

  • famine:飢饉
  • sojourn:寄留,滞在
  • 「飢饉があった」という理由が最初と最後の両方で、1文中計2回述べられている。詩的な問題かなあ。

11. When he was about to enter Egypt, he said to Sarai his wife, “I know that you are a woman beautiful in appearance,
 エジプトにはいろうとして、そこに近づいたとき、彼は妻サライに言った、「わたしはあなたが美しい女であるのを知っています。

12. and when the Egyptians see you, they will say, ‘This is his wife.’ Then they will kill me, but they will let you live.
 それでエジプトびとがあなたを見る時、これは彼の妻であると言ってわたしを殺し、あなたを生かしておくでしょう。

  • ころしてでもうばいとる」。アブラムの想像のなかのエジプトびと、野蛮すぎる。そうは思うものの、異邦人とは「何をしてくるか分からない存在」である。全地の民はノアを起源とするが、バベルの塔以降、「分からない人間」が存在するようになっている。ましてや、アブラムは75歳にして初めて国を出ているのである。このくらいのリスクは想像するものかもしれない。

13. Say you are my sister, that it may go well with me because of you, and that my life may be spared for your sake.”
 どうかあなたは、わたしの妹だと言ってください。そうすればわたしはあなたのおかげで無事であり、わたしの命はあなたによって助かるでしょう」。

  • 妻を妹に偽装することで、アブラムは殺されるのを回避する(リスクヘッジ)。妻を娶るためには夫を殺さないといけないが、妹を娶るのに兄を殺す必要はない?

14. When Abram entered Egypt, the Egyptians saw that the woman was very beautiful.
 アブラムがエジプトにはいった時エジプトびとはこの女を見て、たいそう美しい人であるとし、

15. And when the princes of Pharaoh saw her, they praised her to Pharaoh. And the woman was taken into Pharaoh's house.
 またパロの高官たちも彼女を見てパロの前でほめたので、女はパロの家に召し入れられた。

  • 「パロ」は「ファラオ(Pharaoh)」のこと。「パロの高官」は「ファラオに仕えている高官」のこと。高官は英訳では prince(王子)とされている。なぜ? どうやら「王子」ということではなくて和訳通り「高官」のことであるらしい。フランス語訳だと les officiers de Pharaon となっている。

16. And for her sake he dealt well with Abram; and he had sheep, oxen, male donkeys, male servants, female servants, female donkeys, and camels.
 パロは彼女のゆえにアブラムを厚くもてなしたので、アブラムは多くの羊、牛、雌雄のろば、男女の奴隷および、らくだを得た。

  • 和訳では要約されているが、英訳では「羊→牛→雄のろば→男の奴隷→女の奴隷→雌のろば→らくだ」の順で書かれている。ヘブライ語でもこのような順番になっているっぽい。人間の男女がろばの雌雄でサンドイッチされている。対句法なのは良いとして、韻律、脚韻の可能性もあるかも? この順番で述べられているのはなぜだろう。

17. But the Lord afflicted Pharaoh and his house with great plagues because of Sarai, Abram's wife.
 ところで主はアブラムの妻サライのゆえに、激しい疫病をパロとその家に下された。

  • afflict X with Y:YでXを苦しめる
  • 夫をもつ女を妻にしようとする不義理を認めない神。エバの頃から女は罪の象徴となっている?
  • 神、結構酷いな……。アブラムが嘘を吐いたのは罰さなくていいのか?
  • 疫病の記録を物語に落とし込んだ結果?

18. So Pharaoh called Abram and said, “What is this you have done to me? Why did you not tell me that she was your wife?
 パロはアブラムを召し寄せて言った、「あなたはわたしになんという事をしたのですか。なぜ彼女が妻であるのをわたしに告げなかったのですか。

19. Why did you say, ‘She is my sister,’ so that I took her for my wife? Now then, here is your wife; take her, and go.”
 あなたはなぜ、彼女はわたしの妹ですと言ったのですか。わたしは彼女を妻にしようとしていました。さあ、あなたの妻はここにいます。連れて行ってください」。

  • 正論パンチ。ファラオかわいそう。
  • このくだりは、人類初の政治的な嘘か。カインなども神に対して虚偽の申告(4:9)をしてはいたが、その場凌ぎの嘘であった。アブラムは目的意識をもち、計画的に嘘をついた。
    アブラムが罰されないの、アブラムが特権をもった存在となっていて、rule by law(法治主義)っぽい。個人的には、law(法)であるのは神だけであってほしい(rule of law)。

20. And Pharaoh gave men orders concerning him, and they sent him away with his wife and all that he had.
 パロは彼の事について人々に命じ、彼とその妻およびそのすべての持ち物を送り去らせた。

 

参考

 

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