ビー‐シー‐シー【bcc】 の解説
《blind carbon copy》電子メールの機能の一。本来の送付先以外にも同内容のメールを送る際に用いる。ccと違って、受信者は自分以外にもそのメールを受け取った人がいるかどうかを知ることはできない。
bcc(ビーシーシー)[blind carbon copy]の意味 - goo国語辞書
BCCとは、Blind Carbon Copyの略であるという。
しかしふと、この名称は意味と少しズレているように思った。
この疑問を解消するために調べてみた。
ToとCCとBCC
BCCは電子メールの宛先を決定する際に、To、CCと並んで記入の選択が与えられる。
Toは「宛先」を表し《あなたに送っています》というメッセージとして機能する。
CCはCarbon Copyの略で「複写」の意。これは紙媒体においてカーボン紙を用いて複写を作成することに由来する。電子メールでは《反応しなくていいけど目を通しておいてください》ほどのメッセージとして機能する。
To、CCに記入されたアドレスはメールの届け先全員に表示される(可視化される)のだが、BCCに記入されたアドレスは表示されない(可視化されない)。つまり、BCCという命名は「目に見えないCarbon Copy」ほどの意図があると思われる。
しかしよく考えてみると、blindはふつう「目隠し」「盲目の」というような意味である。このままだと「目隠しとなるCarbon Copy」「目が見えないCarbon Copy」という意味になってしまう。「目に見えない」という意味にするなら「Invisible Carbon Copy」ではないのか?
blindの用法
blindの用法を確認してみよう。Oxford Dictionary of Englishを引いてみる。
形容詞の項目。
► adjective
1. unable to see because of injury, disease, or a congenital condition: a blind man with a stick | he was blind in one eye.
■ (of an action, especially a test or experiment) done without being able to see or without having relevant information: a blind tasting of eight wines.
■ Aeronautics (of flying) using instruments only: blind landings during foggy conditions.
2. lacking perception, awareness, or judgement: a blind acceptance of the status quo | she was blind to the realities of her position.
■ not controlled by reason: they left in blind panic.
■ not governed by purpose: moving purposelessly in a world of blind chance.
3. concealed or closed, in particular:
■ (of a corner or bend in a road) impossible to see round: two trucks collided on a blind curve in the road.
■ (of a door or window) walled up.
■ closed at one end: a blind pipe.
4. [with negative] Brit. informal not the slightest (used in emphatic expressions): this declaration is not a blind bit of good to the workers.
5. (of a plant) without buds, eyes, or terminal flowers.
- 負傷あるいは病気、先天的疾患のせいで目が見えない:a blind man with a stick ステッキをもった盲目の男|he was blind in one eye 彼は片目が見えなかった。
■ (行為、特に吟味や実験について)見ることなく、あるいは関連情報を持たずに為された:a blind tasting of eight wines 8種類のワインを利き酒すること。
■ (目視を伴わずに)計器のみを使って飛行する:blind landings during foggy conditions 霧中で計器に頼って着陸すること。 - 知覚あるいは自覚、判断力を欠いている:a blind acceptance of the status quo 現状を盲目に受け入れること|she was blind to the realities of her position 彼女は自分の立ち位置の現実に対して盲目だった。
■ 理性で制御されていない:they left in blind panic 彼らは抑えの利かない混乱を放置した。
■ 目的に左右されない:moving purposelessly in a world of blind chance 全くの偶然でできている世界で目的なしに動くこと。 - 隠されている、あるいは閉じられている。特に:
■ (道路の曲がり角について)見まわすことが出来ない:two trucks collided on a blind curve in the road 2台のトラックがその道路の見通しの悪い角で衝突した。
■ (戸や窓について)塞がっている。
■ 一方の末端が閉じている:a blind pipe 盲排水管。 - [否定文で](主に強調表現で)ちっとも~ない:this declaration is not a blind bit of good to the workers この宣言は労働者にとってちっとも良い話ではない。
- (植物について)芽や花のない。
3の用法っぽい。「Blind Carbon Copy」はたしかに「隠されたCarbon Copy」である。
この用法は「盲目とは目(視界)が塞がっている/隠されている状態である」ということからの類推だろうか。つまり、2の「判断力を欠いている」のような概念が盲目であることのありうる結果であるのに対して、3の元となる「視界が塞がっている」のような概念はむしろ盲目であることのありうる原因(あるいは前提)である。そして「視界が塞がっている/隠されている」→「何かが塞がっている/隠されている」という抽象化が起こり、3の用法が発生すると思われる。
ついでにblindの語源も確認しておこう。
Old English blind "destitute of sight," also "dark, enveloped in darkness, obscure; unintelligent, lacking mental perception," probably from Proto-Germanic *blindaz "blind," perhaps, via notion of "to make cloudy, deceive," from an extended Germanic form of the PIE root *bhel- (1) "to shine, flash, burn."
古英語 blind「視界のない」「暗い,暗闇に包まれた,薄暗い;知性のない,知的知覚の欠いた」
← ゲルマン祖語 *blindaz「盲目な」←「曇らせる,騙す」
← 印欧祖語の語根 *bhel-「輝く,閃く,燃える」のゲルマン派生形
古英語の時点で「目に見えない」のような意味が派生しうる用法を持っていたようだ。つまり「暗闇に包まれた」→「姿が見えない」という派生もありうる。そもそも「誰かの目が見えない」「物が目に見えない」は辺りが暗い状況では両立する事象である。
こういうわけで、blindの用法は現在たしかに主に「盲目の」ではあるが、blind carbon copyのように「目に見えない」の用法も部分的に用いられているようだ。
ちなみに、印欧祖語の「輝く」からゲルマン祖語の「盲目な」への派生は「輝く」→「眩しくする」から「目がくらむ」を経たものと思われる(『英語語源辞典』)。そう考えると、「何らかの光で目が眩む」から「辺りが暗い」にまで発展するのは興味深い。強すぎる光は暗闇を齎す。過ぎたるは及ばざるがごとし。
参考
- 寺澤芳雄編 『英語語源辞典』 研究社、1997年。
英語語源辞典 | 寺澤 芳雄 |本 | 通販 - Amazon.co.jp - Online Etymology Dictionary
Etymonline - Online Etymology Dictionary - Oxford Dictionary of English